Yuko Takenoshita

Interviewer Back number photographs=Kenji Sakurai Interviewer=Tomomi Watanabe text=Kazuyuki Koenuma
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まずは、私がシンガポールを 楽しむことが大事です
※会社名、所属部署名、役職はインタビュー当時のものです。
アジアのビジネス拠点として多くの企業が進出しているシンガポールで、30年近く前から人材ビジネスを展開してきたパソナシンガポール。日本とシンガポール両国の文化を熟知し、懸け橋となってギャップを埋めることで、キャリア支援やコンサルタントの育成に繋げているトップコンサルタント・竹之下に、同国での成功の秘訣を聞いた。

大学卒業後、念願だった海外へ

 幼い頃からずっと海外志向があった。振り返ってみても、何がきっかけだったのはよく分からない。それでも、海外で働きたいという思いは本気だった。大学卒業後に上海に飛び、2年間語学を勉強した後、現地で就職活動を行った。自分の武器である語学力とカスタマーサービスを活かせる業種はホテルだと考え、片っ端から電話をしてアポを取り、面接を重ねて行った。「とにかくアクティブで、無鉄砲だったと思います」と、竹之下は当時を振り返って苦笑いをする。無事に就職が決まり、2年間働いた後、新天地を求めてシンガポールとマレーシアに一週間ずつ滞在した。複数の人材紹介会社に登録して就職活動をする中で、出会ったのがコンサルタントという職業だった。 「パソナに登録したときに、『当社で働いてみませんか?』と声をかけてもらったんです。友人が上海で人材ビジネスに関わっていて、どんな仕事か話は聞いていました。とはいえ経験がないので、最初は迷いましたが、やってみようと思って入社したんです」
 この決断から早12年。竹之下はトップコンサルタントとして相応しい成績を出し続け、現在はマネージャーとしてマルチリンガルチームを率いている。メンバーは日本人、日本語が堪能な外国人、とそうでない外国人で構成されており、国籍は日本、シンガポール、中国、韓国、インドネシアなど様々だ。コンサルタントは分業制だが、営業担当が求人を開拓した後は、クライアントへの連絡や求職者のケアも行っている。
 パソナシンガポールのクライアントで多いのは、日系のメーカーや商社、電子部品や産業機械を扱っている企業が中心。そのほかにITや金融系もあるという。約7割が日系企業で、3割がローカルや欧米系の企業だ。ポジションの多くはジュニアからミッドキャリアゾーン。職種は、東南アジア全域の海外営業をはじめ、一般事務や総務、営業事務などの需要がある。チームは金融、経理・財務、IT, 管理系など、専門分野に特化し、お客様のニーズに速やかに対応できる体制を整えています。
「コールセンターのオペレーターもニーズの高い求人の一つです。日本にいるお客様を、シンガポールでサポートする形態です。日本人が求めるサービスやクオリティのレベルは高く、言葉の問題もあるので、日本人でなければ対応が難しい。そのためカスタマーサービスオペレーターの募集が多いんです」
 具体的には海外損害保険の問い合わせ対応や、ITシステムのヘルプデスクなどのアウトソーシングを請け負っている企業が多いそうだ。

海外志向の若い日本人が増えている

 一方、登録スタッフも日本人、日本語ができるシンガポール人や外国人、日本語ができないシンガポール人や外国人と様々だ。日本人登録者の場合、20代後半〜30代半ばくらいの若い年代が中心だという。
「大学を出て就職をして、3年間働いて一区切りを付け、長年の夢だった海外で働こうとシンガポールに来た日本人が多くいます。最近ですと、フィリピンなどに一年くらい留学して、英語をブラッシュアップしてから来る人も多いですね」
 自らも大学卒業と同時に、海外に飛び出した経験を持つ竹之下は、そんな若い登録者たちに「経験の大切さ」を伝えるようにしている。日本で就業経験を積んでから海外に出る方はともかく、就業経験が無い状態で海外に出るなら、研修制度などが日本のように充実していない分、自分で学ぶ姿勢が求められ、その為には経験者の3倍の努力が必要、とアドバイスを送っているのだ。
 現在、シンガポールには2万5000人〜3万人の日本人がいるという。かつては短期間で離れていく人が多かったそうだが、国が発展して暮らしやすくなったため、十年以上の長期滞在者も増えているのだそう。
「一般事務職の場合、月給は3000ドル〜3500ドルが平均です。シンガポールは物価が高く、そのうち千ドルは家賃で出て行ってしまいますが、それでも住みたいという方が多いのです。治安が良いですし、公用語は英語。アメリカやオーストラリアはビザがほとんど取れない状況ですが、シンガポールはまだ可能性があります。給与水準が高いとは言えませんが、それでもタイやマレーシアに比べたら高いので、人気があるのです」
 プライベートも楽しめるのがシンガポールの魅力の一つだ。低価格の航空会社が充実しているため、海外にも気軽に行くことができる。休日はプーケットなど近隣諸国のリゾート地で過ごすなど、日本ではできない楽しみ方があるのだ。

避けられない小さな異文化の衝突

 多国籍のメンバーをマネージャーとして管理する難しさ。それは、日本人と外国人のメンタリティが全く異なることだという。例えば、なかなか結果が出ないコンサルタントを鼓舞し、「一ヶ月後の結果を見て、改めて今後のことを話しましょう」と伝えたところ、期限ぎりぎりで一週間の有給休暇を申請してきた。理由を聞くと、「このタイミングで有給休暇申請をしないと、消化できないから」という回答だった。
「パソナに残って仕事をすることより、有給を消化できるかが本人にとって大事だったんです。営業成績を上げることについて話をしているのですから、デッドラインを伸ばしてもう少し頑張るか、諦めて終わりにするか、そういう話を直接私にして欲しかったです。そう伝えたのですが、本人は『そうなの?』と言っていました。悪気はないのですが、キャリア感が違うのだと痛感しました」
 こんな例もある。外国人コンサルタントが日系クライアントとやり取りをしたとき、「何で日本人はこんなに細かいのか」と疑問に感じることがあるという。日本人特有の几帳面さが、外国人からすると度を越えているように感じてしまうのだ。また、外国人にとっては約束の時間に遅れるのが珍しくないが、日本人にはその感覚は通用しない。そのため、ことあるごとに日本人の感覚や考え方、求めることをきちんと説明することで距離を縮め、納得してもらっている。日本の方式や考えを押し付け過ぎるのも良くないが、ある程度は守ってもらわないとコミュニケーションが円滑に進まないからだ。一方で、日本人のコンサルタントには外国人の感覚を常に説明し、お互いを尊重できる関係性を作るようにも心がけている。ただし、小さな異文化の衝突はどうしても避けられない。一つひとつのことを真面目に捉え過ぎるとストレスが溜まるので、何があっても笑うようにしていると竹之下は笑顔で明かした。 「シンガポール暮らしを楽しんで、 大変なこともあるけれど 日本では得られない経験ができる、 と発信していくのも私の 役割だと思っています」

双方の文化や価値観をしっかり伝えていく

 パソナシンガポールでは、日系企業への面接を控えたローカルの登録者への、面接対策のアドバイスに特に力を入れている。表面的なマニュアルだけではなく、日本人や日系企業のメンタリティもしっかり伝えるようにしているのだ。竹之下は、日系企業特有の事例として以下のようなことを挙げる。
「面接のときにメモを取らない人に対して、日本人はネガティブな印象を持つ傾向があります。ただし、一部シニアの方は、iPadでメモを取ろうとした方にも同様の印象を持つことが多いのです。iPadになじみのない世代の方は、誠意があるように感じないのかもしれません」
 外国人にとっては理解しずらい感覚だが、そういった日本人特有の考え方を登録者に説明しておくことで、文化や価値観の本質を理解した上で面接に臨めるのだ。両国のビジネスを体験している自分だからこそできるアドバイスをすることで、成約率は上がる。その結果が、求職者の友人などにも広がっていけば、パソナのサービスの質のさらなる向上に繋がっていく。そんな相乗効果を期待して、面談に力を入れているのだという。
 一方の求職者の行動や考え方も、日系企業には理解しがたいことが多数ある。業務内容よりもお給料や福利厚生面を優先する、また、一から十まで細かく指示を出さなければ動かないや面接で伝えた仕事内容と少しでも違う仕事を頼むと「言っていたことと違う!」と言う、など。
「日系企業で働く日本人の方は、日本の考えをそのまま持っている方がほとんどです。日本の考えや水準をシンガポールでも期待されるのですが、それはどうしても難しい。例えばシンガポール人は、殆どの人が1〜2年で転職してしまいます。引き留めることも大事ですが、人が入れ替わっても対応できるオペレーションを、リスク管理としていかに作っておくかの方が大事になります」
 労働者が売り手市場のシンガポールに置いて、よりよい給料や待遇の会社があれば、すぐに転職してしまうのは避けられない。日本人からすると、「給料だけで入社を希望する人はいらない」と考えがちだが、実際にシンガポールである現状を理解し、柔軟に対応していくよう納得してもらうことが大事なのだという。
「弊社も同じで、外国人スタッフが転職してしまうことは止められないんです、と自社での経験を織り交ぜながら、日系クライアントには腹を割って話すようにしています。特に外国人スタッフを採用される場合には、働き方の価値観や会社へ求めるものも、日本と異なる場合も多いので、、外国人スタッフの採用に関しては本当に皆さん苦労している部分なんです」
 そんなシンガポールでの人材ビジネスの状況を、竹之下は「混沌としている感じ」と表現する。きっと日本の人材ビジネスとは全く違うが、難しい分楽しさも大きいのだと明るく話した。

ワークライフバランスの充実を推進

 パソナシンガポールは、現在25名。そのうち、竹之下が率いるマルチリンガルチームのコンサルタントは十名だ。今後は日本人・外国人共にもっとコンサルタントを増やし、どんな求職者にも的確なアドバイスができるようにトレーニングをしていくと竹之下。そうすることで、市場がどのような方向にシフトしても、生き残れる会社になるからだ。もう一つは、シンガポールでの生活をもっと楽しむこと。
「私がシンガポールでの暮らしを楽しんでいないと、求職者やコンサルタントの皆さんにもお勧めできない。ですのでもっとシンガポールの暮らしを楽しんで、大変なこともあるけれど日本では得られない経験ができる、と発信していくのも私の役割だと思っています」
 仕事はもちろん、プライベートも充実させるのが竹之下流だ。定時で帰る外国人スタッフと対照的に、日本人はつい残業をしがち。だが、スマートに働いて成績を残した上でなら、オンタイムで帰宅してもらうことも大歓迎だと竹之下は言う。そして遊んだり勉強したりして、自分に投資してもらうのが一番です、とワークライフバランスを推進していくのだと展望を語った。
竹之下優子

竹之下優子(たけのした・ゆうこ)

1976年生まれ。大学卒業後、中国上海に渡り、2年間中国語を学ぶ。その後、ソフィテル上海で営業を2年間担当する。2002年に新天地を求めシンガポールに拠点を移し、現在まで12年間シンガポールの人材業に携わる。2005年3月、パソナシンガポールに入社。リクルートメントコンサルタントの経験を経て、2008年より日本人紹介部門マネージャー、2014年4月より現職。

[Corporate profile]

Pasona Singapore Pte. Ltd.

シンガポールに設立して30年近くの実績をもつ人材ビジネス会社。幅広い業界・職種を網羅し、現地スタッフや日本語・韓国語などの多言語スピーキングスタッフの紹介・派遣サービスを展開している。また40拠点を越える海外オフィスとのネットワークを駆使し、海外採用対象の人材も豊富に取り揃えている。